アディクトの優劣感

1 2 3 次へ

原作者・池間了至VS脚本家・西永貴文

進行 小出正之
2008年3月26日
場所 カフェ・フランジパニ(六本木)

小出 西永さんが小説「アディクトの優劣感」の感想を2005年にブログに書いたのがはじめですよね

西永 村木って同じ劇団の役者に「ニッシーはきっと好きだよ」と言って、渡されたのがこれで、彼が面白いって言ったものは全部面白いんです。

池間 関係ないけど、中学の時、村木って同級生がいて。

小出 いましたね。

西永 読んでみたら、やっぱ凄く面白くて。一日で一気に読んじゃって、興奮してブログに感想書いちゃったって感じなんですけど。 原作者と合うのか、由季宏と合うのか、分かっちゃったんですよね。由季宏の生き方とか考え方とか凄い共感持てて。ドラッグであったり、クラブ行ってたり、間男だったり、自伝なのか、フィクションなのか迷いながら読んだんですけど。一番凄いと思ったのがドラッグを決めるたびに小説では、「*Y=・・・・・」って煙をプカッと吐く表現があって、誰もが思う様な疑問を解いていくんですがそれが納得いくんですよね。何故四打ちの電子音が気持ちいいのか、とか意識と無意識の違いとか、自分で深く考えた事無かったので、すごく新鮮で。ドラッグをキメた頭で答えだしてくる面白さと、ヒノコっていう二十歳くらいのオンナに完璧に打ち負かされちゃう辺り、由季宏がMだってことがこの本の中心であると思うんですけど、どんどん立場が下になっちゃって、いざその子がいなくなったときに、その子とのやり取りの中で一番印象深かったのが「死」ってことで、由季宏が深く見つめ直して、彼がリミッターカットに向かうというのが、凄く儚いんですけど、なんか納得いって。本の構成として、これが遺書だったっていうのが最後に分かるっていう、トリック感が池間さんにまんまとハマったというか。 最後のヒノコのメールでもう泣きそうになって。という思いをブログに書いた、って感じですね。

小出 それを僕が見つけて脚本を依頼したんですね。撮影が大半終わってるにも拘わらず(笑。

池間 よく再構築できたよね。

西永 ブログに感想を書いて、脚本依頼が来るなんてないですよね。ホント縁があったっていうか。池間さんや藍河さんに会えたのが凄くうれしくて、池間さんには会ってすぐにサインもらいました(笑。一ファンになってましたね。

小出 池間さんがアディクトを書くまでに「助走」みたいなものが長かったと思うんですが、「核」となるモノをさかのぼろうとすると何処までさかのぼれますか?

池間 「核」っていうのは、たぶん25歳の会社を辞めるころか、サラリーマンを辞めたいのと、書くのと同時進行というか。でも、書いても書いても形になるもんじゃなくて。屋台やりながら、シナリオの学校行って、そのうち、屋台やってる中で、サラリーマンではあえない様な刺激的な人たちに会うようになって、いろんな経験を積み重ねていって、最終的に「KAI」という店を閉めたときに、それまであったことを一気に書こうって思って、書き始めたのが流れで。
書いてる途中でヒノコみたいな女とも出会って、そういうものがどんどん入っていって、出来たっていう。 書き上がってから、どうしようかと思ったときに、風邪をこじらせて入院したんだけど、かなりひどくて死にそうになって。 そういうときって気も弱くなっちゃうもので、「ここで死んだら(書いた)意味がないから、とにかくどんな形でも早く出そう」と思って、文芸社から出したんですよね。

西永 アディクトは初めて書いた小説なんですか?

池間 短いものやシナリオとかいろいろ書いてたんだけど、300枚超えたのはこれが初めてで。それまでは100〜200枚くらいは書けたけど、300枚ってなかなか越えられなくて。

西永 最初からラストシーンは決めてたんですか?

池間 ラストはこれですね。長い長い遺書を書こうって言うのが狙いで。読んでいくうちに何の話かわからないような感じから最後はアレっていう風にやりたかったんです。

西永 脚本書く時に、池間さんからいただいた小説の原本のCDRの中に、小説に書かれてない「その後の話」なのか、短い文みたいなのがたくさん入ってて、「あ、これ凄い貴重なものもらった!」と思いました。

池間  マジで?覚えてない

西永 すごい興味深くて。藍河さんや小出さんにその話しをしたら、「みたいみたい」ってなって。

小出 たぶん、絵で言うとラフスケッチみたいのがいっぱい入ってましたね。

池間 出版社の人と、そこからいろいろ議論して構成していったんだよね。

西永 ヒノコって、多分読んでる人がそれぞれが思い描く「ヒノコ」像があると思うんです。池間さんの中にもモデルとなった人もいるだろうし、僕の中でも、ヒノコを「この子に似てるな」って思いながら読んだし。
いかに由季宏に共感できて、自分のヒノコが想像できるかが「アディクト〜」を読む楽しみかなって。他に好きなファクターは「麻美と香織のダブルヘッダー事件」とか(笑。

池間 あれ、散々に言われるけどね(笑

西永 あとはクラブのシーンもすごい好きで。僕も昔よくクラブ行ってたんですけど。DJしてる由季宏が「もうその辺で終わりにしてください」って店の人に言われて、止めようとして、フェーダー一回下げて、「おおー」って拍手になったかと思ったらまた上げて、ガッと盛り上がるとか、知ってる人と知らない人とでは全然感じ方が違うじゃないですか。ああいうところとか大好きですね。

小出 原作を読んでから映画を観た森川(池間の中学時代の後輩。小出の同級生)が、「原作に忠実な映画だ。同じと言っていいくらい」って言ってたんです。で、僕も劇場公開が終わってから、改めて原作を読んでみたんですが、映画では大量にカットされたシーンが出てきた。西永さんは藍河監督と一緒に相当カットする作業をされたんですが、アディクトのエッセンスを漏れなく脚本に入れてくれたので、大幅にカットしてるにも関わらず、「原作に忠実だ」と映画を観る者に思わせたんだと思います。
最初、西永さんには脚本のちょっとした直しだけやってもらおうと思ったんですが、西永さんと話してる内に、藍河監督と僕以外にこの世にこんなにアディクトのことを考えてる人がいたって言う事実に感動して、「西永さん、全部書いてください」って言っちゃったんですね(笑。
で、西永さんから脚本上がってきたとき、冒頭が由季宏がホテルでオーバードーズで苦しんでいるシーンから始まっているのを読んで、興奮したのを覚えてます。
あとは僕が印象深かったのは由季宏が「ワォ」とか「ファック!」とか言ってる辺りで、この辺も「西永節」かなと。『お台場SHOW-GEKI城』というフジテレビの主催で行われたイベントで、招待劇団として西永さん主宰の劇団『猫☆魂』の『happiness!!!』を観に行ったのですが、これがもう、ぜひ、アディクトとセットで観て欲しい舞台でしたね。西永さんが役者で出ていて、最後、幸せの青い鳥が実が青いペンキで塗られたカラスだっていうシーンで西永さんがそれを見て高らかに嘲笑うんですが、これがかっこいい。

西永 みんなが探してる「幸せの青い鳥」なんて、誰かがいたずらでペンキ塗った鳥とかで。結局そんなもんじゃないかっていう。

小出 西永さんに次は役者として僕の映画にぜひ出て欲しいと思いました。

西永 アディクト読んで、思ったことがひとつあって。「人生いろんな枝分かれがあるように見えるけど、実は一本だ」という、その考え方、運命論に、「確かにな」って思うんですよね。由季宏が「こうだ」って言うと、否定も出来なくて、納得がいくというか。僕が考えてた事と近い部分もあって。池間さんはそういう考え方ですか?

池間 特に最近になってそういう考え方が強くなった感じはあるかな。なにかと動いちゃってる部分があって、自分がどう思っても引き戻されて、行く方向にしか行かないと言うか。例えば気に入った女の子が現れて、うまくいかなくても、うまくいかないように選ばされていて、もしそれで先に行く道があるならそれで行くしかないと言うか。決まってるものがあるのかも知れないなと言う。努力しても、努力すること自体が最初から決まっていて、例えばアディクトの映画ならそれはもう動き出したんだから、なるようにしかならないと言うか。

小出 『happiness!!!』の中でも運命論的な語りがありましたよね。

西永 池間さんが小説という手段で、その考えを表現してるのを見て、僕もそれを舞台で表現できればと思って。で、かなり近い内容を舞台で表現させてもらいました。百人が百人、共感しなくてもいいと思うんですよ。ただこういう考え方もありますよって何か見せることで、こういう事を考えてる人もいるんだって言う、池間さんがアディクトで伝えてきたことを僕がそう感じたように、ちょっとでも、舞台を観てる人の気持ちが楽になればいいなって。結構、失敗とかですごく落ち込むときとかありますが、そういうとき「最初から決まっていたことかもしれない」って思えば気が楽になるというか。

小出 西永さんの脚本では、デフォメの制限などで映像化されなかったシーンがあって、特に由季宏が頭がキマって思考が拡がるシーンを「脳内イメージ」という柱で脚本の中でたびたび出てきたんですが、これがとても面白かったです。

池間 人が思うほど、どっか行っちゃう世界じゃなくて、淡々と語っていく表現は映画としてもよかったと思う。大抵、ドラッグやってるシーンが出る映画では「それはないだろう」って演技してることがあって、逆にリアルじゃない。滑稽に見える。アディクトにはそれがないのがよかったと思う。

小出 アディクトにはいわゆる、「禁断症状」のシーンはないですよね。

池間 ないですね。

西永 玲加の様にパニック障害でクスリ依存という方が身近というか。

池間 クスリを20個くらい持ってないと不安、みたいな、そっちの方が危険というか。まあ、どっちも同じ話。

西永 「タイマ」のことを「オオアサ」と言ってたとか、勉強にもなりましたね。

1 2 3 次へ

ニュース一覧



©『アディクトの優劣感』製作委員会(天空、アジア映画社、スタジオ・イプセ)